
食の探求セミナー「ミルクそのままの美味しさ体験」@代田食品館 清水
今回のブログ担当者は…?
はじめまして。青果担当の清水と申します。4月19日、虎ノ門ヒルズ駅直結のcask内レストラン「W」にて開催された、京丹波ミルクファームすぎやまによるフレッシュチーズのセミナーに参加させていただきました。
今回の特別企画では、代表の杉山牧氏によるモッツァレラチーズ作りの実演を間近で拝見することができました。セミナーでは、チーズ作りの工程やこだわり、酪農業界の現状などについてもお話しいただき、深い学びと感動を得ることができました。
食の探求セミナーについて
食の探求セミナーとは、学びと発見を通じて食べることに向き合い食の本質を知っていただく場としてスタートしたイベントです。信濃屋がその道のプロフェッショナルをお迎えしご講演いただきます。その後、講演で取り上げられた食材を使った特別なランチコースをお楽しみいただくという内容です。毎回定員50名様のお席は満席で、大変ご好評頂いております。
チーズ職人 杉山 牧氏
1950年に入植、農地2ヘクタール・牛一頭から酪農をはじめ、牛たちが自由に動き回れる構造で、牛の寝るベッドが一頭ごとに仕切られている「フリーストール牛舎」を早くから導入したそうです。牛たちの乳房が張ったタイミングで行う自動搾乳機の採用、一頭ごとに行なう乳質の分析、こだわりの飼料などすべてが「牛ファースト」で運営されています。
経験則に基づく管理だけではなく、自動化やデータ化を推し進め、しっかりと後継者が育つ環境づくりにも注力されている生産者です。

杉山さんは地元の農業高校で食品加工科・乳加工を専攻し、卒業後は北海道でチーズやアイスクリームの製造技術を学びました。
初めてイタリアを訪れた際、ナポリ近郊の山地で味わった出来立ての水牛モッツァレラに衝撃を受けたそうです。「本当のミルク感や新鮮さといった“ミルクのありのままを味わえる”チーズを初めて食べた」との体験から、「自分もこんなミルクを活かせるチーズ作りをしたい」と強く感じ、モッツァレラに特化した専門の生産工房を目指す決意を固めました。研修期間中もこのチーズを中心に学び、独立時には専門製造を決断されたそうです。
10年前、京丹波町にあるご実家の牧場に隣接する場所にチーズ工場を設立されました。以来、地元の新鮮なミルクを活かしたモッツァレラ作りに情熱を注いでいます。
モッツァレラスペシャルランチの紹介
▼モッツァレラチーズ実演

セミナーが始まる2時間前から、実演のためモッツァレラチーズの準備をしていただきました。
温めた牛乳に酢を入れると、固形分(カード)と液体(ホエー)に分離していきます。カードを適量取り出し、手で丸く形を整えます。簡単そうに見えますが実際やると難しいんですよね。
▼ホエーのオーツミルク
1リットルの牛乳から作られるチーズの量はわずか100g、残りの90%が「チーズホエー(乳清)」とよばれる液体です。原料乳の約55%の栄養素を保持し、ミネラル・必須アミノ酸をバランス良く含んだ優秀な食材なのですが、その多くは活用できず廃棄されているのが現状です。
陽の当たる食材とは言い難い「ホエー」と「オーツミルク」を使ったドリンク。普段からオーツミルクを愛飲している私にとってもこれは初挑戦の組み合わせでした。頭の中で味を想像しつつ、ドキドキしながら飲んでみました。

オーツ麦由来のやさしい甘みとコク、そして上質な生乳から抽出されたホエーの清らかなおいしさが、見事なバランスで調和していました。この絶妙な調合に至るまで、どれほどの試作を重ねられたことでしょう。
セミナーの導入としても、新しい食の体験としても大変興味深く、面白い組み合わせでした。とてもとても美味しかったです。
▼モッツァレラチーズ3種の醤油で食べ比べ
セミナーの直前に、参加者の目の前で実演してくれていたモッツァレラがついに登場です!

※醤油左:弓削多醤油 中:白たまり醤油 右:つれそい
美味しいチーズ作りの条件として乳脂肪分・乳糖質に加えて、MUN(乳化窒素)という数値が重要とのこと。これは乳タンパク質と関係していて、特にモッツァレラはタンパク質が油で変性して伸びる性質のため、そのMUNの数値が低すぎると伸びない・ぼそぼそ・だらだらの食感、そもそも丸くならず全くの別物になってしまうのだそうです。乳質によってチーズの仕上がりが左右されるため、工房に隣接する「京丹波ミルクファームすぎやま」の新鮮な生乳を使用し(運搬にも細心の注意を払いながら)仕上げた、出来立てのチーズをここでいただく贅沢。心地よい繊維感・鮮烈なミルク感をシンプルに三種の醤油のみでいただく、味の変化が楽しい一皿でした。
▼鰆のソテー ~ホエーとバジルのムース~
ホエーを使用したバジルソースが、淡白な白身魚に非常によく合いました。

初夏といっても差し支えないようなセミナー当日の気候にもマッチし、参加者の面々も「ソースが美味しい!」から「もっとかけようよ・かけた方がいいよ!!」と盛り上がり、ついには「かけてあげるよ!!!」へ(笑)ほぼ初対面のなか、テーマを共有する楽しさ、料理の美味しさで、皆様ニコニコでした。
▼恋する豚研究所より 豚肩肉のロティ ~ホエーのスパイシーソース~

千葉県香取市「在田農場」の”恋する豚”は、独自の発酵飼料を与えることで
腸内環境がよく、健康的に育ちます。しっかりとした食べ応えと、臭みがなく甘みのある肩ロースの部位をロティ(オーブンでじっくりと焼き上げる調理法)で仕上げ、ホエーを活かしたソース・フレッシュなルッコラと相俟って、満足感はあるのに想像以上に軽い仕上がりに。
▼プリモサーレ ~山田養蜂場よりアカシアはちみつ添え~

「最初の塩」という意味の「プリモサーレ」。熟成させる工程の中で、いちばん初めの段階のチーズです。汲み上げ豆腐のような柔らかさと、深みのある味わいは、出来立てでしか味わえない希少なもの。さらさらと優しく、華やかなはちみつの風味が奥行きを与えていました。コースの最後に「最初」が出てくるなんて素敵だな、ストーリーとして繋がってるな、と印象的でした。
「モッツァレラチーズ」学びと発見
食のセミナーという枠を超え、個人として、企業として、「大事にしていること」を継続させていくための、様々な施策のお話も拝聴できました。
一次産業はともすれば一子相伝、経験則が最も重要で長い研鑽を積むのが当たり前とされてきました。もちろん五感をフル稼働して、積み上げなければ得られない技術があるのは事実です。しかしその過程が弊害となり、継承が困難になるのであればそれをいかに仕組み化し、言語化するかは、私どもスーパーマーケットの現場(特に生鮮部門)においても同様に、長く課題として存在しています。
京丹波ミルクファームすぎやま様はこの「仕組み化できるもの」と「そうでないもの」を明確に分類し、データ化することで作業負担の軽減や、一部の経験者へ仕事量が集中してしまうことを回避しています。また経験の浅いスタッフも作業全般を担うことで、結果として習得時間の短縮や、やりがいの向上につながっているのだなと思いました。
一方でチーズ作りはご本人のみで行われるという徹底ぶりに、驚かされました。「一子相伝」の部分は残し、合理化できる部分は推し進める。ご本人に「今後の目標」をお聞きしたところ、「もっといいチーズを作れるように頑張りたい」という真っすぐなお答えをいただきました。安定供給するために合理化し90点を目指すのではなく、常に120点、200点と高みを目指す。絶対にブレない信念と、組織としてのチームワークを感じました。
さいごに・・・
信濃屋では「食・酒の探求セミナー」を cask / W TORANOMON にて定期的に開催しています。ご案内は信濃屋コーポレートサイト内のニュース・イベント情報にてご確認いただけます。セミナー開催中、お食事と共に気になるワインをセラーから自由にお選びいただき、BYOスタイルで気軽にお楽しみいただけます。気に入ったワインはそのまま購入も可能です。当イベントは一般の方から業界の方まで、どなたでもご参加いただけますのでご興味がありましたらご予約をお願い致します。皆様のご参加を心よりお待ちしています。